Direction Mixer

Direction Mixer を使うと、MS 録音のデコードをしたり、左/右録音におけるステレオベースを広げて、そのパン位置を定義したりすることが可能です。

Direction Mixer は、マイキング技術を問わず、あらゆる種類のステレオ録音に使うことができます。XY、AB、および MS 録音の詳細については、ステレオマイキング技術を理解するを参照してください。

Figure. Direction Mixer window.
  • 「Input」ボタン: 入力信号が標準の左/右信号である場合は「LR」ボタンをクリックし、MS エンコード信号である場合は「MS」ボタンをクリックします。
  • 「Spread」スライダ/フィールド: LR 入力信号のステレオベースの広がりを指定します。MS 入力信号のサイド信号のレベルを指定します。Direction Mixer の「Spread」パラメータを使うを参照してください。
  • 「Direction」ノブ/フィールド: 録音されたステレオ信号のパン位置の中央(ステレオベースの中央)を指定します。Direction Mixer の「Direction」パラメータを使うを参照してください。

Direction Mixer の「Spread」パラメータを使う

Direction Mixer の「Spread」パラメータの動作は、MS 信号と LR 信号のどちらを受信するかによって変化します。この違いは次の通りです。

LR 信号を操作する場合、Direction Mixer の「Spread」パラメータは次のように機能します:

  • ニュートラル値の 1 にすると、信号の左/右サイドがそれぞれ正確に左右に配置されます。「Spread」値を小さくすると、両サイドがステレオイメージの中央に向かって移動します。

  • 値を 0 にすると、モノラルに合成した信号が生成され、入力信号の両サイドが 2 つの出力に同じレベルで振り分けられます。1 より大きい値では、ステレオベースがスピーカーの空間的な限界を超えたイメージ上のポイントまで広がります。

MS 信号を操作する場合は次のように機能します:

  • 1 以上の値ではサイド信号のレベルが上がり、中央信号よりも高くなります。

  • 値を 2 にすると、サイド信号しか聞こえません。

Direction Mixer の「Direction」パラメータを使う

「Direction」を値 0 に設定すると、ステレオ録音でステレオベースの中央ポイントがミックスのちょうど中央に配置されます。

LR 信号を操作する場合は次のように機能します:

  • 90°では、ステレオベースの中央が完全に左にパンされます。

  • - 90°では、ステレオベースの中央が完全に右にパンされます。

  • 値が大きくなると、ステレオベースの中央がステレオミックスの中央に戻りますが、この場合、録音におけるステレオサイドが入れ替わる結果になります。たとえば、値を 180°または- 180°にすると、ステレオベースの中央がミックス内でデッドセンターになりますが、録音の左/右サイドは入れ替わります。

MS 信号を操作する場合は次のように機能します:

  • 90°では、中央信号が完全に左にパンされます。

  • - 90°では、中央信号が完全に右にパンされます。

  • 値が大きくなると、中央信号がステレオミックスの中央に戻りますが、この場合、録音におけるサイド信号が入れ替わる結果になります。たとえば、値を 180°または- 180°にすると、中央信号がミックス内でデッドセンターになりますが、サイド信号の左/右サイドは入れ替わります。

ステレオマイキング技術を理解する

録音によく使われるステレオマイキングには 3 つの手法があります。「AB」、「XY」、および「MS」です。ステレオ録音とは、簡単に言えば、2 つのチャンネル信号を使った録音のことです。

AB および XY 録音でも左右のチャンネル信号を録音しますが、左右のチャンネルを組み合わせて中央信号が生成されます。

MS 録音では実際の中央信号を録音し、左右のチャンネルはサイド信号からデコードする必要があります。サイド信号とは、左右のチャンネル信号を合成した信号です。

AB マイキングを理解する

AB 録音では、2 つのマイク(一般に無指向性ですが、極性は使用できます)を中央から均等に配置し、音源に正対させます。マイク間の間隔が、全体的なステレオ幅とステレオフィールド内の楽器の位置感覚に大きく影響します。

一般に、AB 技術はオーケストラの 1 つのセクション(弦楽器など)や、少人数のボーカルグループの録音に使われます。また、ピアノやアコースティックギターの録音にも効果的です。

AB はフルオーケストラやグループの録音にはあまり向いていません。中心から外れた位置にある楽器のステレオ音像(位置)が不鮮明になりがちだからです。また、モノラルへのミックスダウンにも向いていません。チャンネル間の位相が打ち消されるおそれがあります。

XY マイキングを理解する

XY 録音では、2 つの指向性マイクをステレオフィールドの中心から同じ角度に配置します。右側のマイクは、音源の左側と音源の中央との中間点に向けます。左側のマイクは、音源の右側と音源の中央との中間点に向けます。音源から 45°~ 60°外れた位置で各チャンネルが録音されます(チャンネル間の角度が 90°~ 120°)。

XY 録音では両方のチャンネルのバランスがとれていることが多く、的確な位置情報がエンコードされます。XY 録音は、ドラムの録音によく使われます。また、大きな編成や多くの楽器の録音にも向いています。

通常、XY 録音では AB 録音よりもサウンドフィールドが狭くなるため、再生時にステレオ幅を感じられない場合があります。XY 録音はモノラルにミックスダウンできます。

MS マイキングを理解する

MS(Middle Side)録音を行うには、2 つのマイクを互いにできるだけ近くに配置します(通常はスタンドを使うかスタジオの天井から吊り下げます)。1 つはカーディオイド型指向性(または無指向性)マイクで、録音する音源に正対させます。もう 1 つは双指向性マイクで、(音源の)左右に向けて 90°開いて配置します。カーディオイド型指向性マイクは、中央信号をステレオの片側に録音します。無指向性マイクは、サイド信号をステレオの他方の側に録音します。このように行われた MS 録音は Direction Mixer でデコードすることができます。

MS 録音を再生するときには、サイド信号が 2 回使われます:

  • 録音時と同じ状態

  • 完全に左にパンされた状態。または位相が反転し、完全に右にパンされた状態

MS は、モノラルへの絶対的な互換性を保持する必要があるすべての場合に最適です。XY 録音と異なり、MS 録音には、録音するステレオの中央信号がカーディオイドマイクの指向性の軸にそろうという利点があります。どのようなマイクでも指向性軸がずれることで周波数応答性のゆらぎが生じますが、MS 録音では常にモノラルの互換性が保持されるため、これを軽減することができます。