「Logic Pro」には、ソフトウェア音源用のリアルタイム・チューニング・システムが備わっています。チューニングシステムの設定は、「チューニング」プロジェクト設定で行います。
「ファイル」>「プロジェクト設定」>「チューニング」と選択します(または「チューニングのプロジェクト設定を開く」キーコマンドを使います)。
「アレンジ」ウインドウのツールバーの「設定」ボタンをクリックしてから、ポップアップメニューから「チューニング」を選択します。
ここでは、チューニングに関する背景情報をいくつか説明します。
西欧音楽で使われている 12 音階は、数世紀の時を経て発展を遂げたものです。周波数は連続的に変化するので、これらの 12 音階の間にもいくつもの微分音が存在します。
音階を簡単に説明するために、倍音の仕組みを見てみましょう:開始(または基準)周波数が 100 Hz の(1 秒間に 100 回振動する)音があるとします。この音の第 1 の倍音は 2 倍、つまり 200 Hz になります。さらに、第 2 倍音は 300 Hz、第 3 倍音は 400 Hz と続いていきます。音楽的には、周波数が倍になると、(12音階では)ピッチが1オクターブ上がることになります。第 2 倍音(300 Hz)は基準音(100 Hz)よりピッチが 1 オクターブと純正 5 度高い音になります。
このため、楽器をチューニングする際は、各 5 度が純正であればいいように思えるかもしれません。この方法であれば、C からオクターブ上と下の C に向かって完全なスケールが成立するように見えます。
このことを、簡単な例を使って説明しましょう:仮に、周波数が 100 Hz の「C」という音を基準に楽器をチューニングするとしましょう。(実際の C は 130 Hz 付近にあります)。最初の 5 度は、うねりのないクリアトーンが得られるまでピッチを調整すればいいわけです。(うねりとは、周波数の循環的な変調のことです。)これは、結果としてちょうど 150 Hz にある G になります。これは次の計算式からも求められます:
基準音(100 Hz)× 3(=300 Hz、第 2 倍音の周波数)
これを2で割る(基準ピッチと同じオクターブ内に戻すため)
この周波数の関係は、しばしば3:2の比と呼ばれています。
残りも同様に計算していきます。次の 5 度は、150 × 3 = 450 になるので、これを 2 で割ると 225 になります(しかし、これは基準ピッチよりも 1 オクターブ以上高いものなので、さらに 1 オクターブ下げて 112.5 にする必要があります)。
次の表は、さまざまな計算をまとめたものです。
音程 | 周波数(Hz) | 備考 |
---|---|---|
C | 100 | × 1.5/2 |
C# | 106.7871 | オクターブ内に収めるために2で割る |
D | 112.5 | オクターブ内に収めるために2で割る |
D# | 120.1355 | オクターブ内に収めるために2で割る |
E | 126.5625 | オクターブ内に収めるために2で割る |
F (E#) | 135.1524 | |
F# | 142.3828 | オクターブ内に収めるために2で割る |
G | 150 | (×1.5)/2 |
G# | 160.1807 | |
A | 168.75 | |
A# | 180.2032 | |
B | 189.8438 | |
C | 202.7287 |
この表を見れば、問題があるのは明らかです。
物理的法則に従った予測では、100 Hz の C の 1 オクターブ上は 200 Hz の C になるはずですが、実際には純正 5 度を積み重ねた結果の C は 202.7287 Hz になっています。決して計算が間違っているわけではありません。実際に楽器を使っていたら、違いはもっと明確に聞こえるはずです。
この問題に対処するには、次のいずれかの方法を選ぶ必要があります:
それぞれの5度を完全に維持し、オクターブの音程がずれるのは容認します。
最後の 5 度(F から C)の音程をずらすと、各オクターブの音程がそろうようにします。
オクターブにおける音程のずれは不協和音として聞こえるので、どちらを選択したらいいかは明らかです。
完全に音程が一致したオクターブと、純正 5 度を重ねた結果のオクターブとの間で生じる差のことをピタゴラスのカンマと呼びます。
この難問を解決するために、何世紀にもわたってさまざまな方法が試みられた結果、(12音階の平均律が現れるまでの間に)さまざまな音階が生まれることになりました。
そこで考え出された調律は、倍音の異なる側面を強調したものになっています。いずれも、長所もあれば短所もあるというものでした。純正 3 度(ミーントーン)を最重要視したものもあれば、3 度を多少犠牲にしても純正 5 度に拘ったもの(キルンベルガーの調律法第 3 法など)もありました。
どの調律も独自の個性を持っており、ある個所では良い響きでも、別の個所に来るとひどい音になってしまうこともあります。また、転調すると、曲の性格がガラッと変わってしまう場合もあります。
古典的な鍵盤楽器を使った曲を演奏する場合は、調律の選択も重要な鍵となります。選択を間違えると、音質の面からもその曲の時代背景という面からも不正確な演奏になってしまいます。
平均律は、調律誤差(ピタゴラスのカンマ)を半音階のスケールの各音階に均等に分散させたものです。その結果、各音階の間隔は均等にずれ、明らかに音程を外している音はなくなりますが、完全に合っている音もありません。平均律が現在の標準調律として使用されているのは、主に次の 2 つの理由からです:
Hermode Tuning は、電子鍵盤楽器(または「Logic Pro」のソフトウェア音源)のチューニングを演奏中に自動的に制御します。
鍵盤楽器であらゆる和音と音符の進行におけるすべての 5 度と 3 度の間隔を正常に作成するには、オクターブごとに 12 個のキーだけでは足りません。
Hermode Tuningは、この問題を解決するためのものです:キーと音符の間のピッチの関係を維持しつつ、電子楽器の個々の音符を修正することで、調整の純正性を高いレベルで確保できます。この処理では、1つの音符に対して最大50種類に細分化された周波数を生成しますが、12音階による固定チューニングシステムとの互換性も維持しています。
周波数の修正は、和音構造の分析を基に行われます。
各和音内の個々の音符の位置が分析され、各音符と調律された音階との距離の合計が「0」になるように調整されます。緊急の場合は、純正さを多少犠牲にしても、別の補正機能を用いて微調整の段階を最小限に抑えることもあります。
例:
たとえば、C、E、Gの3つの音を組み合わせると、Cメジャーになります。
和声として正しい響きにするには、3度(E)は14セント(セントは調律された半音の1/100)、そして5度(G)は2セント高くする必要があります。
Hermode Tuningは、静的ではなく、動的なものであるということを頭に入れておく必要があります。つまり、音楽の脈略に応じて常に調整が行われるわけです。このような仕組みになっている理由は次の通りです:純正または通常のチューニングに変更できるということは、3 度と 5 度の間隔もより理想的な周波数比率に調整できるわけです。5 度を 3:2 の比率に、長 3 度を 5:4 にすれば、メジャーのトライアドもより強い響きになります。
クリーン(スケール)チューニングの場合、Hermode Tuningは周波数の値を部分的に上下させます。