ES2 のフィルタを使用する

ES2 には、機能の異なる 2 つのフィルタが備わっています。

すべてのフィルタパラメータについて、以下で詳しく説明します。

Figure. Filter parameters.

ES2 で直列または並列のフィルタ設定を選択する

フィルタルーティングの並列と直列を切り替えるには、「Parallel/Series」ボタンをクリックします。いずれかを選択すると、ES2 ユーザインターフェイスの円形フィルタ要素が回転し、フィルタコントロールの位置と方向からシグナルフローがすぐに分かります。ボタンの名前もモードごとに変化します。

Figure. Filter section, shown in both series and parallel configurations.

左側の図では、フィルタは直列に接続されています。つまり、「Filter」の「Blend」値(下を参照)が中央の 0 に設定されている場合、(オシレータ合成セクションの三角領域で合成された)すべてのオシレータの信号はまず 1 番フィルタを通り、次に 2 番フィルタを通ります。次に、2 番フィルタの出力信号が、ダイナミック段階(アンプリファイアセクション)の入力に送られます。

右側の図では、フィルタは並列に接続されています。「Filter」の「Blend」値が 0 の場合、1 番フィルタおよび 2 番フィルタを通った信号が 1:1 でミックスされます。次に、2 つのフィルタの出力信号がダイナミック段階の入力に送られます。

Filter Blend:ES2 のフィルタをクロスフェードする

2 つのフィルタが並列で接続されている場合、「Filter」の「Blend」スライダを使ってフィルタをクロスフェードできます。「Filter」の「Blend」を使って、ES2 のシグナルフローに大きな影響を与えることが可能です。フィルタブレンドが ES2 の信号経路に与える影響を参照してください。

Figure. Filter Blend slider.
  • 「Filter」の「Blend」を一番上の位置に設定すると、1 番フィルタからの出力だけが聞こえるようになります。

  • 「Filter」の「Blend」を一番下の位置に設定すると、2 番フィルタからの出力だけが聞こえるようになります。

  • この間の位置で、フィルタがクロスフェードします。

フィルタを直列に接続している場合も、フィルタをクロスフェードできます。この場合、「Drive」パラメータで制御されるディストーションも考慮する必要があります。というのもディストーションは、選択した「Filter」の「Blend」の設定に応じ、フィルタの前段または間に置くことができるからです。

ES2 のルーターを使ってフィルタブレンドを制御する

「Filter」の「Blend」パラメータは、ルーターのモジュレーションターゲットとして使用できます。モジュレーションホイールなどの手動コントロースソースを使ってフィルタブレンドを変更することはもちろん可能ですが、「Filter」の「Blend」を創造的に使って、2 つのフィルタをすばやく切り替えたり滑らかにフェードさせたりすることもできます。

ソースの例としては、LFO、ベロシティ、およびベクトルエンベロープとプレーナーパッドの組み合わせ(X パッドまたは Y パッドパラメータをソースとして使用)があります。後者を使用すると、オシレータのパラメータに合わせて変化する(ベクトルエンベロープを使っても制御される)、または独自に変化する、いくつかの興味深いフィルタ制御が可能になります。

フィルタブレンドが ES2 の信号経路に与える影響

並列であれ直列であれ、「Filter」の「Blend」値が- 1 ならば 1 番フィルタの出力信号だけが聞こえます。「Filter」の「Blend」値を+1 に設定すると、2 番フィルタの出力信号だけが聞こえます。

オシレータミックス段階(三角領域)からダイナミック段階に到る信号経路を図に示します。フィルタやフィルタオーバードライブ回路(「Drive」パラメータ)を介した信号経路は、「Filter」の「Blend」の設定によって決まります。

Filter Blend:直列フィルタ設定の情報
  • 信号の一部が 1 番フィルタをバイパスするようにするには、「Filter」の「Blend」にの値を指定します。

  • 信号の一部が 2 番フィルタをバイパスするようにするには、「Filter」の「Blend」にの値を指定します。

  • 「Filter」の「Blend」の値が 0 またはならば、1 つだけのオーバードライブ回路が両方のフィルタに作用します。

  • 「Filter」の「Blend」の値がならば、もう 1 つのオーバードライブ回路が有効になり、1 番フィルタの前段でオシレータミックス段階の出力信号に歪みが加わります。

  • 「Drive」の値が 0 ならば、歪みは生じません。

Figure. Filter Blend flowchart when in series configuration.
Filter Blend:並列フィルタ設定の情報

並列設定では、オーバードライブ/ディストーション回路(「Drive」パラメータ)は常に、オシレータミックス段階(三角領域)の、フィルタ段階のに置かれます。フィルタは、オーバードライブ回路の出力から、モノラル入力信号を受け取ります。各フィルタの出力は、「Filter」の「Blend」の設定に応じた比率でミックスされ、モノラル信号になります。

Figure. Filter Blend flowchart when in parallel configuration.

ES2 で 1 番フィルタのモード(Lo、Hi、Peak、BR、BP)を選択する

1 番フィルタは、特定の周波数帯域をどのように消去または強調するか、モードを切り替えることができるようになっています。

Figure. Filter 1 Mode buttons.

1 番フィルタのフィルタモードを選択するには、以下のボタンのいずれかを選択します:

  • Lo(ローパス): このフィルタ・タイプにすると、カットオフ周波数より下の周波数成分が通過(パス)するようになります。「Lo」に設定するとローパスフィルタになります。「Lo」モードの場合の 1 番フィルタのスロープは、12 dB/Oct に固定されています。
  • Hi(ハイパス): このフィルタ・タイプにすると、カットオフ周波数より上の周波数成分が通過(パス)するようになります。「Hi」に設定するとハイパスフィルタになります。「Hi」モードの場合の 1 番フィルタのスロープは、12 dB/Oct に固定されています。
  • Peak: 1 番フィルタはピークフィルタとして機能します。このフィルタ・タイプにすると、周波数帯域内のレベルが上がります。周波数帯域の中心は「Cutoff」パラメータにより決まります。帯域の幅は、「Resonance」パラメータを使って調整します。
  • BR: (バンド阻止):カットオフ周波数を中心としたある幅の周波数帯域を阻止し、その外側の成分のみを通します。この周波数帯域の幅は、「Resonance」パラメータで決まります。
  • BP(バンドパス): カットオフ周波数付近の周波数成分のみを通します。それ以外の周波数はすべて遮断されます。この周波数帯域の幅は、「res」パラメータで決まります。バンドパスフィルタは、周波数帯の中心周波数の両側でスロープが 6 dB/Oct である、ローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせたものと考えることもできます。

ES2 で 2 番フィルタのスロープを設定する

大半のフィルタでは、「Cutoff」パラメータで設定された周波数範囲外の信号成分を完全に除去できるわけではありません。2 番フィルタ用に選択されたスロープまたはカーブは、カットオフ周波数より下の成分をどの程度阻止するか、1 オクターブあたりのデシベル数で表します。

Figure. Filter 2 Slope buttons.

2 番フィルタのスロープは 3 種類あります:1 オクターブあたり、12 dB、18 dB、および 24 dB です。スロープが急であるほど、カットオフ周波数より下の信号が受ける 1 オクターブあたりの影響のレベルが大きくなります。

「Fat」設定では、1 オクターブあたり 24 dB が阻止されますが、低音域のサウンドを保持する内蔵の補正回路が備えられています。標準の 24 dB 設定では、低音域のサウンドがいくらか「やせる」傾向があります。ES2 のオシレータを理解するを参照してください。

ES2 のフィルタカットオフおよびレゾナンスパラメータを使用する

ES2 では、すべてのローパスフィルタ(1 番フィルタの Lo モード、2 番フィルタはローパスフィルタ)で、カットオフ周波数より高い周波数部分がすべて抑制(つまりその名の通りカットオフ)されます。シンセサイザーを使うのがはじめてで、フィルタの概念になじみがない場合は、シンセサイザーの基礎を参照してください。

Figure. Cutoff and Resonance parameters.

ES2 の信号にカットオフ周波数が及ぼす影響

カットオフ周波数(Cut)パラメータは信号の明るさを制御します。

  • ローパスフィルタでは、カットオフ周波数を高く設定するほど、高い周波数成分が通過するようになります。

  • ハイパスフィルタでは、カットオフ周波数よりも低い周波数成分が遮断され、それよりも高い周波数成分だけが通過するようになります。

  • バンドパスフィルタ/バンド阻止フィルタでは、カットオフ周波数によってそのフィルタの中央周波数が決まります。

ES2 の信号にレゾナンスが及ぼす影響

レゾナンス(Res)パラメータでは、指定したカットオフ周波数より上または下の信号を強調または遮断します。

  • ローパスフィルタでは、カットオフ周波数より下の信号を強調または遮断します。

  • ハイパスフィルタでは、カットオフ周波数より上の信号を強調または遮断します。

  • バンドパス/バンド阻止フィルタでは、カットオフ周波数パラメータで設定された周波数の近辺の信号(周波数帯)部分を強調または遮断します。

ES2 でカットオフとレゾナンスを同時に制御する

カットオフおよびレゾナンスのコントロールを同時に制御することが、シンセサイザーの表現力を豊かにする上で重要です。

2 つのフィルタパラメータを同時に制御するには
  • ES2 のフィルタセクションにある 3 つの鎖のマークのいずれかをドラッグします。

    Figure. Filter parameters, showing chain icons between parameters and filters which allow simultaneous control of multiple parameters.
    • 1 番フィルタの「Cut」と「Res」の間にある鎖のマークを使うと、レゾナンス(左右に動かす)とカットオフ周波数(上下に動かす)の両方を同時に調整できます。

    • 2 番フィルタの「Cut」と「Res」の間にある鎖のマークを使うと、レゾナンス(左右に動かす)とカットオフ周波数(上下に動かす)の両方を同時に調整できます。

    • 1 番フィルタの「Cut」と 2 番フィルタの「Cut」の間にある鎖のマークを使うと、1 番フィルタのカットオフ周波数(上下に動かす)と 2 番フィルタのカットオフ周波数(左右に動かす)を同時に調整できます。

「Flt Reset」を使って ES2 のフィルタを自励発振させる

フィルタのレゾナンスパラメータを増やしていくと、内部でフィードバックがかかり、結果として自励発振が始まります。この自励発振により生成される正弦波は、聞き取ることができます。

このような発振を開始するためには、フィルタのトリガが必要です。アナログシンセサイザーでは、ノイズフロアや発振出力が、このトリガとして使われます。ES2 はデジタル方式なので、雑音はほとんどありません。したがって、発振が止まると、フィルタに加える入力信号がなくなってしまいます。

ES2 のフィルタを自励発振させるには
  • ES2 インターフェイスの右上隅にある「Flt Reset」ボタンをオンにします。

    Figure. Filter Reset button.

    このボタンを有効にしておくと、即座にフィルタレゾナンスを発生させるトリガにより各ノートが開始されます。

ES2 の「Fat」パラメータを使って高い「Resonance」値を補正する

レゾナンスの値を大きくするほど、ローパスフィルタを適用したときに、低音域(低周波成分)が阻止されます。

「Fat」ボタン(ほかのフィルタ・スロープ・ボタンの下にあります)をオンにすると、この副作用が補正されてより重量感のあるサウンドになります。

ES2 のフィルタをオーバードライブする

2 つのフィルタには、個別にオーバードライブモジュールが組み込まれています。オーバードライブの強さは「Drive」パラメータで設定します。

Figure. Filter Drive knob.
  • フィルタが並列に接続されている場合、オーバードライブ回路はその前段に置かれます。

  • 直列に接続されている場合は、「Filter」の「Blend」パラメータによって位置が変わります。詳細は、Filter Blend:ES2 のフィルタをクロスフェードするを参照してください。

ES2 のフィルタの「Drive」パラメータは、各ボイスに個別に作用します。各ボイスが個別にオーバードライブされる状態は、音を濁らせるファズボックスを、ギターの 6 本の各弦に付けるようなものです。したがって、キーボード上のどの音域でどれだけ複雑なコードを演奏しても支障はありません。不必要な相互変調エフェクトのために音質を損なうことがなく、クリーンな響きになります。

さらに、「Drive」パラメータの設定によっては変わった特徴の音を作り出すことができます。オーバードライブ気味の特徴ある音を、アナログフィルタではどのように合成しているかを思い返してみるとよいでしょう。オーバードライブ状態になったときのフィルタの動作は、シンセサイザーの機種によってさまざまです。この点で ES2 は非常に柔軟であり、最も繊細なファズ音から激しくディストーションをかけた音まで、音色を自由に操ることができます。

ヒント: 2 番フィルタではディストーションによって入り込む倍音成分がカットされるため、「Drive」パラメータはオシレータの出力波形を変形させるツールと見なして使用できます。

ポリフォニックディストーションの実際の使われ方

ES2 のエフェクトセクションには、専用のディストーション機能があります。それなのに、フィルタセクションの「Drive」機能にいったいどのような利点があるのかと疑問に思うかもしれません。

エフェクトセクションのディストーション回路は、ES2 のポリフォニック出力全体に影響を及ぼします。ロックギタリストであれば誰でも知っていることですが、(メジャーコード、平行 5 度、8 度以外の)複雑なコードにディストーションを適用すると、音が荒れます。このため、ギター演奏で音を歪ませるときは、少ないボイス数、または平行 5 度や 8 度を使って演奏するのが一般的です。

ES2 フィルタの「Drive」パラメータは、各ボイスに個別に影響を及ぼすため、ディストーションエフェクトによる不快な相互変調をサウンドに加えることなく、複雑なコードを演奏することが可能です。

ES2 で 2 番フィルタの周波数をモジュレートする

2 番フィルタのカットオフ周波数は、1 番オシレータで生成される正弦波(これはオシレータがオフの場合にも常に生成されます)でモジュレートできます。この正弦波のレベルは、「Sine Level」パラメータを使って出力段階でミックスできます(「Sine Level」を使って ES2 のサウンドに厚みを付けるを参照)。

Figure. Filter 2 FM.

このようにフィルタの特性をモジュレートすると、結果として得られるオーディオ信号の倍音成分は予測が難しいのですが、モジュレーション強度が大きくなるのを回避すれば、倍音成分が比較的多く残る傾向があります。このフィルタ周波数変調の強さを設定するには、FM パラメータを使用します。

メモ: このタイプのフィルタ周波数変調を、1 番オシレータの FM 機能と混同しないでください。こちらはES2 で周波数変調を使用するにあるように、2 番オシレータでモジュレートされます。2 番オシレータで 1 番オシレータを周波数変調しても、カットオフ周波数のモジュレーションに使用する正弦波信号は影響を受けません。

ES2 のルーターでフィルタ FM を調整する

ルーターの適切なモジュレーション経路を使って、フィルタ FM パラメータの値を変更できます。

モジュレーションターゲットに「LPF FM」を選択します。モジュレーションソースとしては、常に 1 番オシレータの正弦波が使用されます。

モジュレーションソースとして 1 番オシレータがデフォルトで割り当てられており、フィルタ FM の強さと 1 番オシレータの周波数に直接の関係がある場合、1 番オシレータの周波数(Pitch1)をターゲットとして 2 番目の経路を設定できます。

2 番フィルタは自励発振させることもできます。レゾナンスの値を極端に大きくすると、正弦波が発生します。自励発振によって生成されるこの正弦波は、レゾナンスの値が最大になるとゆがみが生じます。オシレータをすべて停止すれば、この正弦波だけが聞こえるようになるのが分かるでしょう。カットオフ周波数をモジュレートすることによって得られる効果は、1 番オシレータを 2 番オシレータで周波数変調した場合とよく似ています。