シンセサイザーオシレータは、1 つ以上の波形を生成する場合に使用されます。信号が、シンセサイザーエンジンのほかの部分に送信されて、加工、処理、または操作が行われます。
これらのパラメータについて説明する前に、ES2 のオシレータセクションで利用可能ないくつかの特殊機能について解説します。
2 番オシレータと 3 番オシレータはほぼ同一ですが、1 番オシレータとは異なります。
1 番オシレータの周波数を 2 番オシレータを使ってモジュレートすれば、FM 音源として使用できます。
2 番および 3 番のオシレータは、1 番オシレータと同期するかリングモジュレーションして使うことができます。また、各オシレータとも矩形波を発振でき、パルス幅もユーザが設定できます。パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)も可能です。
モジュレーションルーターを使用すると、1 番オシレータの矩形波のパルス幅と、2 番および 3 番オシレータの出力を同期またはリングモジュレーションしてできた矩形波を同時に変更できます。
次のセクションでは、各オシレータで使用可能なパラメータの概要を説明します。オシレータは、ES2 インターフェイスの左上の領域にあります。
ES2 のオシレータから出力できる波形としては、多数の標準波形(正弦波、パルス波、矩形波、ノコギリ波、三角波)、および 100 種類のデジウェーブ(DigiWave)があります(ES2 でデジウェーブを使用するを参照)。以下の表に、基本波形を示します:
波形 | 基本トーン | 説明 |
---|---|---|
パルス/矩形 | 鼻にかかったサウンド | リード楽器、合成ブリップ、ベースに最適 |
方形領域 | 鈍くウッディなサウンド | ベース、クラリネット、オーボエに有用。矩形波(2 番および 3 番オシレータ)のパルス幅は、50%から微細なパルスまで連続的に設定できます。 |
ノコギリ | 温かみがあり均一 | 弦楽器、パッド、ベース、および金管楽器の音に有用 |
三角領域 | ノコギリ波よりもソフトな甘いサウンド | フルートやパッドの音に有用 |
正弦 | 純粋なトーン | 1 番オシレータの正弦波の周波数は、2 番オシレータを使ってモジュレートできます。この種のモジュレーションが FM 合成の基礎になります(ES2 で周波数変調を使用するを参照)。 |
2 番、3 番オシレータで、次のような信号も生成できます:
1 番オシレータに同期した矩形波
1 番オシレータに同期したノコギリ波
1 番オシレータの出力と 2 番オシレータの矩形波によるリングモジュレータ
3 番オシレータのカラーノイズ(ES2 でノイズを使用する(3 番オシレータのみ)を参照)
オシレータの同期やリングモジュレーションを使うと、倍音成分が複雑に混じり合った信号を生成できます。オシレータの同期原理については、ES2 のオシレータを同期するを参照してください。リングモジュレーションの原理については、ES2 でリングモジュレーションを使用するを参照してください。
波形パルスの幅を任意の値に設定することで、矩形波形の音色を変化させることができます。これは、パルス幅変調と呼ばれます。
ES2 のパルス幅変調には、さまざまな機能が含まれます。たとえば、すべてのオシレータに対して矩形波を選択した場合、1 番オシレータのパルス波、1 番オシレータに同期した 2 番オシレータのパルス波(または 2 番オシレータのリングモジュレーションで生成された矩形波)、および 1 番オシレータに同期した 3 番オシレータのパルス波を同時にモジュレートできます。
上の図の強調表示された領域にある波形のロータリーコントロールをドラッグします。
パルス幅の変調前に「基本」パルス幅を設定できるのは、2 番および 3 番オシレータだけです。
「Target」として「Osc1Wave」を選択します。
「Source」として「LFO1」を選択します。
変調量スライダを調整します(値 0.12 では若干甘めのサウンドになります)。
LFO 1 に対して正弦波を選択します。
「LFO 1 Rate」を調整します(0.160 Hz ではゆったりとした快い揺れが得られます)。
ヒント: ベロシティに敏感に反応するエンベロープジェネレータの出力を変調波としてパルス幅変調すると、音量の変動幅が大きく、特にパーカッシブな低音に効果的な響きになります。
周波数変調(FM)による合成の原理は、1960 年代末から 1970 年代はじめにかけて、John Chowning が開発しました。1980 年代にかけて、この音は Yamaha の DX シリーズのシンセサイザーにより広く知られるようになりました。純粋に FM 音源として見れば、ES2 は DX シリーズに比べるべくもありません。しかし、その特徴的な音にかなり近い音を生成することができます。
簡単に言うと、ある信号ジェネレータ(オシレータ)の周波数は、別の信号ジェネレータにより変更(変調)されます。2 番目のジェネレータの値が正の場合、最初のジェネレータの周波数が上がります。負の値の場合は、周波数が下がります。
シンセサイザーの場合、この種の変調は可聴周波数帯域で行われます。最初のオシレータの信号だけが(別のオシレータにより変調されて)聞こえるか、両方のオシレータの信号が聞こえるかは、音源の設計に依存します。2 つのジェネレータ間の相互作用により、最初のオシレータの波形信号が変更され、多数のハーモニックが生成されます。次に、このハーモニックスペクトルをソース信号に使用して、フィルタ、エンベロープの制御などのサウンド処理をさらに行うことができます。詳細については、FM(周波数変調)合成を参照してください。
ES2 では、1 番オシレータの周波数(波形ノブを 11 時の位置に設定して正弦波を選択)は、2 番オシレータの出力信号により変調されます。
2 番オシレータから正の信号が出力されると、1 番オシレータの周波数が上がります。
2 番オシレータから負の信号が出力されると、1 番オシレータの周波数が下がります。
各波形周期で 1 番オシレータの周波数を上下することによる実質的な影響は、基本波形に歪みが加えられることです。この波形の歪みによる副作用として、新たな可聴ハーモニックが多数生成されます。
重要: 周波数変調の効果は、2 つのオシレータの周波数の比率とモジュレーションの強さの両方で決まります。
一方または両方のオシレータの「Frequency」パラメータ値を粗調整または微調整します。
1 番オシレータの波形ノブで、「Sine」アイコンと「FM」アイコンの間の領域をクリック(またはドラッグ)します。これにより、周波数変調の量または強さが決まります。
「純粋な」FM 合成手法では、最初の信号ジェネレータと 2 番目の信号ジェネレータの両方で、正弦波が使用されます(この方法を堅持する場合、1 番オシレータと 2 番オシレータの両方で、ES2 から生成される波形が正弦波に制限されます)。
ただし、ES2 では、両方のオシレータで、100 種類のデジウェーブを使うことができる上に、変調の強さと周波数比を無数に組み合わせて使用できます。このため、膨大なハーモニックスペクトルと音色を試すことができます。これらをぜひ活用してください。
ヒント: 生成される変調の種類は、特に 2 番オシレータ(変調を実行するオシレータ)で選択する波形により大きく異なります。
リングモジュレーションは、ベルのような不協和成分の多い金属音を生成することのできる強力なツールです。これを使って生成されるスペクトルは、ほぼすべての周波数比で不協和音が多くなります。リングモジュレータは、ごく初期のシンセサイザーですでに使われていました。
リングモジュレータには 2 つの入力があります。出力時に聞こえるのは、入力信号の周波数の和および差です。200 Hz の正弦波を、500 Hz の正弦波でリングモジュレーションすると、700 Hz(和)および 300 Hz(差)の信号が出力されます。周波数が低いほうの出力信号は、位相が反転しています。
リングモジュレータ信号を出力するには、2 番オシレータの波形ノブで「Ring」設定を選択します。一方または両方のオシレータの「Frequency」値(メインおよび微調整)を自由に設定して試してください。
2 番オシレータのリングモジュレータは、1 番オシレータの出力信号および 2 番オシレータ自体から生成された矩形波を受け取ります。この矩形波のパルス幅は変調可能です(ES2 でパルス幅変調を使用するを参照)。
ヒント: より複雑な出力信号を作成する場合は、1 番および 2 番オシレータから生成されたノコギリ波および矩形波(パルス幅変調された)入力信号をそれぞれ使用します。倍音成分の多いこれらの波形を使うことで、多数の側波帯が聞こえるようになります。
シンセサイザーの基本波形に加えて、ES2 のすべてのオシレータには、デジウェーブと呼ばれる 100 種類の追加波形が用意されています。これらは、さまざまなサウンドおよび音源のアタックトランジェントの非常に短いサンプルです。
波形ノブを「Sine」 (6 時の位置)に設定してから、以下のいずれかの操作を行います:
「Sine」ラベルを Control キーを押しながらクリックするか、右クリックして、表示されるポップアップメニューから波形を選択します。
「Sine」ラベルをクリックしたまま、マウスを上下にドラッグします。
数字でデジウェーブを選択する場合は、Shift キーを押しながらメニューをクリックして、値を入力します。
3 番オシレータのノイズジェネレータは、ノイズ波形を選択することで有効にできます。デフォルト状態では、3 番オシレータはホワイトノイズを生成します。
これは、ある周波数帯域のあらゆる周波数成分が、同程度の強さですべて含まれる信号です。この周波数帯域幅は Hz 単位で表します。音響的には、ホワイトノイズは、子音の F と浜辺に打ち寄せる波の音の間にあります。ホワイトノイズは、風や波、電子スネアドラムの音を合成するのに役立ちます。
「Analog」パラメータは、ES2 のインターフェイスの左上にあります。このパラメータを使って、各ノートのピッチやフィルタカットオフ周波数をランダムに揺らします。
一般的なポリフォニック・アナログ・シンセサイザーと同様、3 つのオシレータはどれも相互に一定の偏差がありますが、ランダムにピッチのチューニングが揺れる範囲はどれも同じで、「Analog」で指定した量になります。たとえば、「Analog」でチューニングの揺れを約 20%に設定すると、3 つのオシレータはすべて(使用する場合)20%だけランダムにずれます。
「Analog」に小さい値を指定すると、サウンドに若干の豊かさを加えることができます。
「Analog」に中間の値を設定すると、アナログシンセサイザー回路に特有の不安定なチューニングをシミュレートできます。これはアナログ・ハードウェア・シンセサイザーの暖かみを表現するのに便利です。
「Analog」に大きい値を設定すると、ピッチが大幅に不安定になり、チューニングが大きく外れたサウンドになります。時には、これが非常に効果的な場合があります。
メモ: ES2 が「Mono」または「Legato」キーボードモードに設定されている場合、「Unison」がアクティブな場合にのみ「Analog」パラメータが有効になります。この場合「Analog」では、各ボイスのピッチをどの程度外すかを設定することになります。「Voices」パラメータが 1 であるか、「Unison」がオフの場合、またはその両方が当てはまる場合、「Analog」パラメータは調整しても効果はありません。これらのパラメータについて詳しくは、ES2 のキーボードモード(Poly、Mono、Legato)を選択するを参照してください。
各オシレータの(粗調整)「周波数」ノブを使って、1 番、2 番、および 3 番オシレータを半音階またはオクターブ単位で調整できます。(微調整)「周波数」パラメータを使うと、各オシレータをセント(半音の 1/100)単位で微調整できます。オシレータ間のチューニングを精密にずらすと、オシレータの周波数間でビートやフェイジングが生成されます。再生される周波数/ピッチが高くなるほど、うねりは速くなります。したがって、低音よりも高音の方がチューニングが外れすいように感じられるかもしれません。
2 番オシレータの「周波数」ノブの左にある「CBD」(Constant Beat Detuning)パラメータでは、低いノートの周波数のハーモニックを、高いノートの基本周波数に応じた比で外します。
これにより、意図的に(平均律から)「外して」チューニングされた自然なサウンドエフェクトが得られます。これは、アコースティックピアノでよく使用されます。これはストレッチチューニングと呼ばれ、上段および下段の鍵盤の音域を中央のオクターブから若干外しますが、和声としては相互に「チューニングが合って」います。
CBD は、補正ツールとして使えばオシレータ間のうねりを均一化することができ、作成ツールとして使えばストレッチチューニングをエミュレートできます。ES2 のサウンドをアコースティックピアノの録音と共に使用する場合、後者は特に重要です。
「CBD」パラメータには、オフ、25%、50%、75%、100% の 5 つの値があります。100%を選ぶと、鍵盤の音域全体にわたって、ほぼ一定のうねりになります。しかし、この値では効果が強すぎるように感じられるかもしれません。高音のうねりが自然に聞こえるようにすると、低音が外れ過ぎの状態になってしまいます。鍵盤の上段の音域で低音が外れ過ぎの場合は、低めの値にしてみてください。
CBD の基準ピッチは C3(中央 C)です。CBD の値をどのように変えても、この音のチューニング(デチューニング)は一定です。
三角領域のクロスフェード内にある四角形のアイコンをドラッグして、3 つのオシレータ間の相対的なレベルを設定します。これは直感的に操作できます。三角形のある辺に沿って四角いアイコンを動かせば、近接した 2 つのオシレータの出力信号がクロスフェードされます。この場合、残りの 1 つのオシレータは無音です。
オシレータは、それぞれ思うままに発振させることも、ES2 がノート・オン・メッセージを受け取るたびに各波形周期の同じ位相位置で開始させることもできます。ES2 のインターフェイスの右上隅にある「Osc Start」(Oscillator Start)ポップアップメニューを使って動作を設定できます。
「Osc Start」を「free」に設定した場合:オシレータの初期位相は、再生されるノートごとにランダムな位置になります。これにより、より生き生きとしたサウンドが得られます。欠点は、ノートを再生するたびに出力レベルが異なるため、MIDI リージョンによりノートがトリガされる場合のように、演奏が毎回同じであっても、アタックフェーズが迫力に欠けるように聞こえる場合があることです。この設定が有用なのは、典型的なハードウェア・アナログ・シンセサイザーのサウンドをエミュレートする場合です。
「Osc Start」を「soft」に設定した場合:オシレータの初期位相は、再生されるノートごとにゼロクロッシングの位置で開始されます。これは、デジタルシンセサイザーの典型的な音響特性(および精度)を模倣しています。
「Osc Start」を「hard」に設定した場合:オシレータの初期位相は、再生されるノートごとに波形周期の最大レベルで開始されます。この設定により得られる「パンチ」効果は、「ENV3」のアタック時間パラメータを小さい値(非常に速い立ち上がり)に設定した場合にのみ聞くことができます。電子打楽器や荒いベース音を出したい場合に特にお勧めします。
メモ: 「Osc Start」の設定を「soft」や「hard」にすると、音を再生するたびにオシレータの初期位相の出力レベルが常に一定になります。バウンス機能を使う場合、録音レベルを最大にする上で、この点が重要になることがあります。